協生農法マニュアルを読み解く〜第1章総論「協生農法の原理」その3

はじめに

すずなり農園代表の松尾です。協生農法のマニュアルで、農法に関する勉強をしています。

協生農法は、自然農法がベースにある農法ですが、物理学や数学、自然科学を使って定式化しようという試みが大変興味深いです。

前回までの勉強した内容を一言で言うと、生物の多様性向上により生態系機能が向上し、生態系サービスを享受することができるようになるのが協生農法であり、これらはシグモイド曲線にしたがって向上していきます。

つまり、圃場の生物の種類をどんどん増やしていけばよいと言うことです。その時人間がやることは、有用植物(主に野菜)が優勢になるよう管理してあげる事だけです。

今回は、マニュアルの10ページから読み解いていきます。

参照元:

協生農法マニュアル

野人エッセイす

総論

協生農法の原理〜10ページから

自然放任すればよいというわけではない

協生農法では、無耕起・無施肥・無農薬というのが条件となっています。この条件は、なんの理由もなく掲げられているわけではありません。

生態系を構築しようとした結果として、無耕起・無施肥・無農薬が必要となってくるという事です。

つまり、無耕起・無施肥・無農薬は生態系構築の必要条件となっているという事です。

ということは、無耕起・無施肥・無農薬は協生農法の十分条件ではないため、なんらかの他の条件が必要です。

その条件の一つが、「積極的に有用植物を導入する」ということです。

自然放任すれば協生農法のになるわけではなく、それはただの耕作放棄地です。

生物多様性の増進に、以下のものが総合的につながるよう意図して工夫することが必要となってきます。

  • 導入に伴う撹乱
  • 有用植物のニッチ形成
  • 食物連鎖による動物叢の制御
導入に伴う撹乱

圃場が安定していて定常状態の時に、例えばそこに苗を植えるとします。苗を植える際は、土を掘り、そこに今まで存在していなかった植物を存在させます。

土を掘ることにより、そこに棲んでいた微生物やミネラルのバランスがこわれ、新たな植物を導入することにより、水分や栄養や土壌内の空間のバランスが壊れます。

例えば自然界では、大雨で山崩れが起きたり川が氾濫します。その時、山は削られ、土は流され、開かれた空間ができます。

その空間は一見荒廃した土地になってしまったように感じます。しかし、しばらくすると、その場所に植物が生え、虫が生息し始めます。

その時、生物の多様性が向上していきます。こういった、自然が起こす撹乱により、自然界の生物多様性向上は促進します。

積極的に苗を植え種を蒔き、畝上に撹乱を発生させることにより、土壌の微生物を含めた生物の多様性向上を実現する事ができます。

こういった、撹乱と生態学との関連の研究は、撹乱生態学といったものでなされています。

有用植物のニッチ形成

生物学的用語としてのニッチは「適した場所」や「得意分野」といった意味で使われています。

有用植物が生息するのに適した場所や環境というものを意図して工夫する必要があります。

ただし、生物多様性向上による生態系機能の向上により、環境というものは自動的に調整されそれぞれの植物に適した状態になっていくと勉強しました。

そういったことと組み合わせながら、しかし、ただランダムに植物を配置していくのではなく、植物のニッチが形成されるような管理が必要になってくるということです。

例えば、日陰を好む植物は日陰に植えてあげるとか、乾いたところが好きな植物は乾いたところに植えてあげるとかです。ただ、完全に人間が制御してしまうのではなく、ある程度自然に任せることにより、本来植物が求めるニッチな場所というものが見えてくるかもしれません。

例えば、松は痩せた土で育つので痩せた土が好きだ、ということで、日本の痩せた山には松が植えられますが、本来、松は肥沃な土地が好きらしいです。

そういった風に、人間の思い込みで場所を決めて植えるのではなく、ある程度自由度を持たせて、植物の成長を観察する必要があると思います。

群集生態学というもので昔から研究されています。

食物連鎖による動物叢の制御

有用植物を導入することで、生態系が生物多様性へ向かうように食物連鎖を人為的に制御していく必要があります。

まずは、圃場にどんな昆虫や爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類がいて、それぞれがどのような食物連鎖を形成しているかを把握するところから始まると思います。

立ち上がり時期は、生き物はとても少なく、食物連鎖が構築されていないため、例えば、蛾の幼虫が一気に増え、白菜がレースみたいになってしまうと思います。

やがて、その幼虫を求めて、天敵がやってきて、幼虫を食べることによりその数が落ち着くことで、白菜やキャベツがレースのようになることは無くなっていくでしょう。

大量発生した幼虫

そういったことが繰り返し発生し、最終的には、動物の死骸や糞を微生物が分解することにより、植物がそれを吸収し成長します。

これは、その地に棲む動物が自然発生的に生態系を構築しないといけません。よそから幼虫の天敵を人為的に持ってきて、圃場に放してしまうと、生態系のバランスは崩れます。

日本で増えてしまった外来種の動物たちのことを考えればお分かりになるかと思います。

協生農法では、持ち込んでいいのは種と苗のみです。有用植物を導入することにより、食物連鎖を人為的に制御します。最初にも書いたように、圃場の状況をつぶさに確認し、把握した上で、食物連鎖の制御を実行していきましょう。

慣行農法との対比

従来の慣行農法では、耕起・施肥・農薬が、撹乱・ニッチ形成・食物連鎖に相当します。

撹乱と耕起

耕起は、土を耕して土を柔らかくし、植物の根が張りやすい状態にするため、また、肥料をすきこむために行われます。

協生農法では、撹乱に置き換えることができます。そもそも、協生農法は不耕起栽培が条件となっています。それは、例えば種をまくことによりそれが成長して根をはることで、その土地を植物が耕していきます。

苗を植えることも同様です。苗を植えるときは穴を掘りますが、表土を少しだけ崩して植えるだけです。土中では根が張り、その根っこに微生物が寄ってくることにより、土中が撹乱されます。

そういったことで、協生農法では耕起は不要です。

ニッチ形成と施肥

施肥は、肥料を与え、植物を大きく成長させます。そのとき、その植物にあった肥料を与えます。

例えば、人参を植えるときは石灰を撒いて土壌をアルカリ性にしましょうとか、ナスは肥料食いなのでたくさんの肥料を与えましょうとか、身をつけるにはリン酸が必要なので、追肥しましょうとか、色々なやり方があります。

協生農法では、ニッチの形成により、施肥を不要とします。生態系機能の向上により、環境が最適化されていきます。土中の栄養や水分、ミネラルのバランスが最適化されていきます。

そこに生える植物にとっての最適化とともに、最適な場所で自然と植物が育つようになります。

そういったことで、施肥は不要となります。

食物連鎖と農薬

農薬は、慣行農法で言は虫を殺し、病気を治し、雑草をなくす目的で撒かれます。

慣行農法では、たっぷりと肥料を与えるため、葉に溜まった余分な硝酸体窒素などを求めて虫が次々と寄ってきます。

慣行農法では一つの植物を同一の畝でたくさん作ったり、水をたくさんあげるので、病気がちになります。

慣行農法では、栽培中の野菜以外の植物を雑草として全て取り去ってしまいます。

単一の植物だけをいかに大きく育てるかということに注力しているため、自然とは程遠い状態で野菜が育成されます。

協生農法では生物多様性を向上させることを目的の一つとしているため、生えてきた草は有用植物をゆうせいにする程度にのみ刈り取り、しかも、刈り取った草は持ち出さず、そのまま畝の表面に戻します。

その草を分解しようと、昆虫や微生物が寄ってきます。微生物は土壌のバランスをよくし、虫は、天敵を呼び寄せ、生物の多様性はどんどん向上していきます。

そうやって、食物連鎖が自然発生的に構築されていきます。圃場の生態系のバランスが保たれ、虫による食害や病気も減り、農薬が不要になります。

進化の歴史に基づく

協生農法の圃場では、生物史上で最も多様な生態系を構築することができます。人の制御によって生物多様性を向上させるからです。

ただし、闇雲に生物を多様にしていけばいいというものではなく、今現在、圃場がどのような植生段階に位置しているかを見極める必要があります。

そして、その植生段階がどこに向かっているかを見極める必要もあります。

太古の昔の地球に想いを馳せてみよう。地球が球体を形成し、やがて大気に覆われ、雨が降る。海と大地ができた。

やがて海の中に生命が誕生した。海の中の生命は進化を続け、やがて大陸にその住処を広げようとする。

その、大陸に住処を広げようとした植物の進化の過程を模倣することにより、何もない圃場を生物多様性の高い生態系が機能した圃場に進化させる事ができます。

「個体発生は系統発生を模倣する」という反復説というものがあります。

引用元:Wikipedia

ある動物の発生は、その動物の進化の過程を繰り返す形で行われるという説です。

上記の図は、脊椎動物の発生過程ですが、途中に、サンショウウオやカメやニワトリの初期の胚と同じようなものを見る事ができます。

協生農法では「生態遷移は上陸進化を模倣する」という考え方に基づきて、生態系機能を構築していきます。

極相である森林の状態を、母体の中で退治が成長するように、圃場の上で上陸進化を短期間のうちに辿らせることにより目指します。

上陸進化を模倣する

植物は陸に進出して、樹高や根の深さ、環境に対する柔軟性を進化させてきました。なので、上陸進化を真似するには、次の順番で植生を遷移させると、スムーズにいきます。

一年草 → 多年草 → つる性植物 → 低木 → 高木

左から右に行くにつれて、環境に対する柔軟性が高まり、樹高や根の深さもより成長するものとなっています。

引用元:協生農法マニュアル

多くの野菜は、一年草です。一年草は1シーズンで芽が出て花が咲き、種ができて枯れる植物です。最初の目標は、畝の上を一年草でいっぱいにする事です。そうする事で、畝上の上陸進化模倣の第一歩が踏み出せます。

下の写真は、畝上を一年草でいっぱいにするために実験中の畝です。1月の画像ですが、キャベツ、春菊、大根、エンバク、ねぎなどが共生しています。

すずなり農園の一年草の多様性向上実験

多年草は、アスパラやイチゴ、ニラなどの植物です。アスパラは一度植えると10年収穫できると言われている植物です。

つる性のものは、一年草だと、ゴーヤやキュウリ、多年草だと、オカワカメやアピオスなどがあります。

ただし、この順番にこだわらずに、順番を飛ばしたり戻したりする事で、生物多様性をよりあげる事ができます。

協生農法では畝にまず、木の苗を植えるところから始めます。この作業は、上陸進化の順番を飛ばして生物多様性をより早く向上させるためのものだと考えます。

まとめ

「生態遷移は上陸進化を模倣する」ということを基本に、圃場の成長が上陸進化を模倣しながら行われるように制御していきます。

そうする事で、バランスのとれた生物多様性を実現する事が出来ると思います。

このことは、「個体発生は形態発生を模倣する」という考え方から来ています。太古の地球に想いを馳せながら、自分の農場の成長を見守る。なんてロマンチックな作業なのだろうと思います。

まさに、圃場の神になった気分です。

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